移調を恐れるべからず!

入試の楽典問題では、よく「次の曲をト長調に移調しなさい」といった出題があります。

この類の問題はミスをしないように神経を使うので、あまり好きな子はいません。私も受験の頃には、何の意味があるのかと思いながら渋々やっていました。何というかあまり音楽的な作業と感じられなかったのです。ところが先生業をはじめてみると、移調は「出来て当たり前の技術」だということに気付かされました。

レッスンで小さい人を指導していると、より楽な調性に楽譜を移調するという仕事を日常的にします。たとえばリコーダーの楽譜などはフラット系のほうが美しく聞こえて指も楽です。シャープ系の曲を響きの良い♭系にわざと移調することも多いです。

もちろん基本は作曲家の書いた原譜に忠実に演奏しますが、「ほたるこい」のような民謡はどの高さで歌われていたか定かではないですし、童謡や現代の流行歌も音域調整のためには移調せざるを得ません。
この時に先生が移調できないと譜面探しに奔走することになります。あー大変。思ったようなアレンジがあるわけでもなく、結局は自分でやったほうがマシ。そんなわけで大抵の先生は自分で楽譜を作ってしまうというわけです。

移調は、特に伴奏の人たちにとっては直接的に必要とされる技術でもあります。
声楽の伴奏をすると、歌の人たちは勝手ですから「歌いやすいから1つ高くして」などと、日常的に調の変更を要求してきます。移調された楽譜が元からあれば良いのですが、ないことも多く、その場で移調して弾かなければになりません。仕事として受けたなら出来ないとは言えないです。鍵となるのはまずバスの動き、さらに要所の和音をつかまえて…と考えながら弾いていきます。

移調が出来るためには、まず調性感が必要です。ヘ長調の中に入ればヘ長調、ト長調に入ればト長調と、感覚を自由に変えられる人です。それって自分の中に音楽を流せる人(内的聴感のある人)こそが、移調をできるということになります。

私は移調のことを「曲のお引越し」と呼んで、就学前から頻繁にやります。
大人はどうしても構えてしまいますから、難しいことを考えない小さい頃が習得のチャンスです。実際大人より子どものほうが移調は上手にこなします。子どもは恐れを知らないし直感で動けるからでしょう。

私自身は移調を遊びと考えていて、ワンフレーズずつ違う調で歌う遊びを楽しんでいました。
母からは「その変な歌をやめてちょうだい!」と言われましたが、自分で発明した面白い遊びなので、どんどんエスカレートして移調しまくっていました。
でも移調って、本来そんな程度の「音遊び」が糸口でよいのではないかと思います。子ども時代にそういう経験を沢山できると、本当に得難い耳が手に入ります。

◎ソルフェージュ教室・ラソラ◎

千葉県柏市で音大受験準備レッスンをしています。

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